ASTM D790プラスチックの曲げ試験に関する定義ガイド
ASTM D790に準じたプラスチックの曲げ試験の実施
ASTM D790は、強化プラスチック、非強化プラスチック、高弾性複合材料、電気絶縁材料の曲げ特性を測定するための試験メソッドです。このガイドは、ASTM D790曲げ試験の基本的な要素について、必要な試験装置、ソフトウェア、試験片の概要などをご紹介します。ASTM D790に沿った試験を計画している場合は、このガイドは規格全文に相当しないことをご理解ください。
ASTM D790はお客様にとって最適な規格ですか?
ASTM D790は、プラスチックの曲げ特性を測定するために設計された試験の1つです。プラスチック材料の引張特性を定量化する必要がある場合は、ASTM D638を参照してください。なお、この規格は、5%ひずみ以内に破断または降伏しない材料の曲げ強さを測定するためのものではありません。このような材料は、ASTM D6272に準拠した4点曲げ試験により適している場合があります。
ASTM D790とISO 178の相違点
ASTM D790はISO 178と非常によく似ていますが、いくつかの重要な点で異なっています。
- ISO 178では、弾性係数を測定するために、たわみ計またはコンプライアンス補正のいずれかを使用することが要求されています。ASTM D790では、これはあくまで推奨であり、弾性係数はクロスヘッド変位のみで計算できます。
- 望ましい試験片のサイズは異なり、試験速度は試験片の厚みに依存するため、試験速度は規格によって異なる場合があります。ASTM D790試験片の厚みは、3.2 mmを推奨します。ISO 178の試験片の厚みは、4 mmを推奨します。
- ASTM D790では試験速度は1つだけですが、ISO 178では弾性係数を測定した後に、2つ目の(より速い)試験速度を使用できます。

測定の対象となるもの
ASTM D790は、曲げひずみやたわみのある状態での材料の曲げ特性を測定します。この試験は、3点曲げ治具と万能試験システムで、試験片の厚みに比例した速度で行われます。ASTM D790試験は、以下の機械的特性を測定するために使用されます。
- 接線弾性係数 - 曲げ弾性係数とも呼ばれ、荷重たわみ曲線の初期直線部分の傾きで、材料の剛性を測定します
- セカント弾性係数 - 原点と荷重たわみ曲線上のあらかじめ定義された点との間の傾き
- コード弾性係数 - 荷重たわみ曲線上のあらかじめ定義された2点間の傾き
- 曲げ強さ - 曲げ試験で得られる最大曲げ応力
- 破断時曲げ応力 - 曲げ試験中に試験片が破断するときの曲げ応力。材料によっては降伏点の手前で破断するものもあります。その場合、曲げ強さは破断時の曲げ応力に等しくなります。
試験メソッド
ASTM D790では、異なる種類の材料を対象とした2種類の試験メソッドを記載しています。望ましいのは手順Aで、0.01 mm/mm/分のひずみ速度を採用しています。手順Bはひずみ速度が0.10 mm/mm/分で、低速で試験したときに5%のひずみで破断しない可能性のある材料を対象としています。ASTM D790では、クロスヘッド変位または伸び計の読み取り値からひずみを測定でき、それぞれタイプ1およびタイプ2の試験として説明されています。
ASTM D790に要求される試験速度は、試験片支持間距離、試験片厚み、ひずみ速度の関数として表されます。Bluehill® UniversalのExpression Builderでは、試験速度を静的な数値としてではなく、関数として入力することができます。試験オペレーターが試験片の寸法を入力すると、ソフトウェアが式に従って試験速度を自動的に修正します。
試験システム
ASTM D790試験は、卓上型または床置型の万能試験機で実施でき、試験を最適化するためにさまざまなアクセサリーを構成することが可能です。試験室ごとにニーズが異なるため、いくつかの異なるシステム構成が用意されています。
基本的な構成例を以下に示します。この試験セットアップには、3点曲げ治具は備えていても、伸び計は備えていない3400シリーズの試験システムが含まれています。つまり、この場合のひずみはクロスヘッド変位で測定する必要があります(タイプ1試験)。ひずみをクロスヘッド変位で測定する場合は、コンプライアンス補正を行うことを推奨します(ただし必須ではありません)。3400シリーズの試験機は、伸び計と組み合わせてタイプ2の試験に使用することもできます。
試験処理能力
試験処理能力の向上を必要とする試験室では、システム設定に変更を加えることができます。D790の試験は時間がかかるため、高い試験処理能力を必要とする試験室では、マルチステーション6800シリーズが選ばれています。また、試験片の測定、試験片の装填、試験、ひずみ測定、試験片の取り外しなどを組み込んだ全自動試験システムもあります。これらのシステムは、オペレーターによる介入なく何時間にもわたって動作でき、人為的エラーによるばらつきも抑えます。
試験片
ASTM D790の試験片は長方形で、成形、押出し、または板やシートから切断されたものです。ASTM D790の試験片の寸法は材料の厚みに依存し、規格では試験片の深さとして定義されています。厚みが3.2 mmを超えるシート材は、厚みに比例した幅とスパンを持ちます。厚みが3.2~1.6 mmのシート材は、幅が12.7 mm、スパンは試験片の厚みの16倍として定義されます。厚さ1.6 mm未満のシート材は50.8 mm×12.7 mmで、支持スパンは25.4 mmです。
電気絶縁材料の試験片の寸法は、その公称厚みに基づいて、異なる測定基準が設定されています。成形品は一般的に、深さ3.2 mm、幅12.7 mm、長さ127 mmです。試験片の深さの16倍に等しい支持スパンを使用します。高強度の強化複合材料は、試験片の外側の繊維で破壊が起こることを促すために、規格に記載された寸法を持つ必要があります。複合材料やその他の異方性材料の試験を行う際には、曲げの際に発生する力によってのみ破壊が起こるように注意する必要があります。また、最も強い繊維方向が試験される方向となるように、試験片を切断する必要があります。

試験片の測定
試験片は、ASTM D5947に準じたマイクロメーターで測定する必要があります。試験片の幅と厚みを3回測定し、その平均値を報告します。Bluehill Universalの自動試験片測定装置(ASMD)機能により、オペレーターは最大2つのマイクロメーターや測定装置をコンピューターに接続し、測定値の平均値を直接ソフトウェアに入力することができます。これによって入力ミスが減り、効率性が向上します。
曲げ具
ASTM D790では、3点曲げ治具を使用します。この治具は、移動クロスヘッドに取り付けられたローディングノーズと、試験片の支持スパンの距離に合わせて調整可能な2つの試験片支持アンビルを持つ固定部材で構成されています。アンビルとローディングノーズの表面は、特に指定のない限り半径5 mmの円筒状とし、円筒状部材の長さは試験片の幅より長くする必要があります。
インストロンの曲げ治具は、試験精度を向上させるために、いくつかの重要な機能を備えています。アンビルの正確な位置決めと、ひずみ測定装置を使用するときのたわみ計の中心合わせを容易にするため、支持ビームの目盛付きの長さ単位を使用します。インストロンの曲げ治具には、試験片の幅に合わせて調整できるアライメントアームも付属しています。試験片のアライメントは結果に大きなばらつきをもたらすことがあり、試験ごとに試験片を一貫してアライメントするために適切な注意が必要であるからです。



